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オクラガ日誌

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2010年 08月 18日

『手のなかの空 奈良原一高 1954-2004』

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盂蘭盆の家の行事が終わり、16日は丸一日自由な時間ができた。
松江の島根県立美術館で松江出身の写真家、奈良原一高の写真展をやっているので、
朝飛び起きて出かけてきた。

私には写真のスタイルというものは無くて、見よう見まね、行き当たりばったり、試行錯誤で撮影を続けています。
写真の勉強らしい勉強はしてなくて、有名な写真家についての知識がほとんど、
あるいは、まったくといっていいほどありません(笑)。
このたびの奈良原一高氏については、恥ずかしながら、名前も知らないくらいですので、
その作品についても……。
県立美術館で島根出身の写真家の作品展が開催されているというテレビのコマーシャルを見て、
奈良原氏の作品展と同時に植田正治と森山大道の作品も見られる知り、長駆車を松江に走らせました。


奈良原一高の作品は1Fのメインギャラリーで。モノクロームの作品を中心に
約500点が展示されていた。作品群を八つに分けて展示がスペースに区切られていました。
この度の展示の中心は初期の作品群か。

初期作品である「人間の土地」の作品。
長崎県の軍艦島の炭鉱夫たちとそこに生活する人々、その地風景が壁一面に並ぶ。
モノクロの写真に鮮明で真に迫る生活感を感じる。
これらが半世紀前の写真。今ではないか!
溶岩や火山灰に埋もれた鹿児島県桜島の貧村の写真。
子どもたちの顔にたくましい生命観を感じる。力強い。
最初のコーナーで写真の迫力と力に圧倒さた。

「王国」では北海道当別にあるトラビスト男子修道院と和歌山市の婦人刑務所を撮影。
修道院の写真から日々の生活の静かさや修行の厳格さを感じたが、
婦人刑務所は何故か人間的なぬくもりを感じる写真だった。

奈良原は西欧の写真を撮影している。フランス、イタリア、スペインなど。
「塔」、「窓」、「秘密」、「化石」などという一つの言葉をモチーフにして展示。
一点一点見てまわると、60年代奈良原がどのように感じながらシャッターを切ったか
想像が膨らむ。

興味を引いたのはスペインで撮影した闘牛の写真。闘牛士と牛との戦い。
濃いグレーの赤いマントを翻して牛を激昂させる。それとともに観衆も血が高ぶる。
そして険を手に持ち、闘牛士の一刺し一刺しにアリーナにいる観衆も興奮して、
歓声がこだまするのが聞こえてくるような写真。
その場にいる人々の精神の高揚感と対峙する牛と闘牛士の緊張感が
モノクロームで表現されている。
アリーナ全体は興奮のるつぼですが、闘牛士の立ち姿を見ると戦いの中の
一瞬の静寂さ、寂寥感を感じる写真だった。

奈良原は私が海外でぜひ行ってみたい水上都市、ヴェネティアでも撮影されていた。
三部作あるそうだが、展示されていた作品はどれも光と影、陰影がはっきり見える
素晴らしい素敵な作品。
長時間なんども行き来しながら見てきた。奈良原の撮影した他のヴェネティアの写真を見てみたい。
会場の出口の反対側の壁には、大きくカラープリントされた「ダニエリホテルの前」
など3枚の長尺の作品。
作品の中の人々の視線の強さに見ている私が反対に見られているようで、強烈な印象を持った。


2Fのコレクション展示室では「神々の国しまね~古事記1300年 写真神話SANIN」と題されて、
植田正治・奈良原一高・森山大道の作品を見ることができた。
点数こそ多くないが植田正治の作品、その中で「パパとママとコドモたち」を実物で見られたことが収穫。
伯耆町の植田正治写真美術館に未だ行けていない。森山大道の「犬の町<何かへの旅>より」はやはり迫力ある作品。

もう一つの展示室では「サンパウロ×ブエノスアイレス」。
森山大道がブラジルのサンパウロ、アルゼンチンのブエノスアイレスで撮影した100点の作品が展示してある。
どの作品も熱気に満ち猥雑な都市の風景をモノクロームで切り取っている。
写真の中の人々に日本の都市とは違うたくましさや力強さを感じた。
100枚も見て回ると作品の持つ力に酔いそうでした。

「サンパウロ×ブエノスアイレス」の展示室は、壁三面に展示されているのだが、
一面の壁の作品が照明の映り込みあって、せっかくの作品が見にくいと
きれいな美術館員さんに優しく苦情をいいながら、お話しをする。

オクラガ:「せっかくの森山さんの作品がもったいない。映り込みがなんとかならないでしょうか。」
美術館員さん:「申し訳ありません。作品の展示の方法で三段になったために、照明の位置の関係で映り込みができてしまって。」
オクラガ:「1日の森山さんのトークイベントはどうでした。来館者は多かったですか。」
美術館員さん:「たくさんの方に来場していただいて、たいへん盛況でした。」
オクラガ:「森山さんって作品と同様、エネルギッシュな方なんでしょうね。」
美術館員さん:「(にっこり笑いながら)それはエネルギッシュな方でした。七十歳を越えられているのですが、お弟子さんも一緒に来られたのですが、先生が一番お元気でした(笑)。」
オクラガ:「この写真を見ると想像ができます。どの写真も力強いですから。」
美術館員さん:「森山さんは島根にご縁のあるかたなんですよ。お母様が大田市宅野のご出身だそうです。小さい頃なんども島根に来られたそうです。そのためか島根にとても愛着をもたれていて、この度の展覧会にもこころよくご協力いただきました。」
オクラガ:「隣の展示室に森山氏の直筆の原稿がありましたよね。原稿用紙に几帳面そうな字で島根の思い出が書いてあるのを見ましたよ。」
オクラガ:「この度の展覧会、とてもいい展覧会ですね。」
美術館員さん:「ありがとうございます。山陰から日本を代表する素晴らしい写真家が生まれています。この度の奈良原一高さんや植田正治さん。奈良原さんは松江出身、森山さんも島根にご縁のある写真家です。」
オクラガ:「ありがとうございました。」
美術館員さん:「ありがとうございました。お気をつけてお帰り下さい。」

午前10時の開館から約二時間、何百点もの素晴らしい写真を見てまわると、
写真が持つエネルギーを消化できなくなって、軽い疲労感を感じるようになる。
ディスプレーの中ではないプリントされた写真の持つ魅力。
何十年の経っても消えない本物の写真の力を体感できた展示会でした。

最近、厚い肉を食べなくなったな、とつまらぬことを思いながら美術館を後にしました。

by okurugger | 2010-08-18 06:21


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